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札幌地方裁判所 平成10年(行ウ)9号 判決

原告

有限会社しりべし工業

右代表者代表取締役

清水信一

被告

北海道知事 掘達也

右指定代理人

伊良原恵吾

井上正範

亀田康

田中紀勝

鈴木正隆

高瀬克則

橋田仁司

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件不許可処分の適法性につき判断する。

1  農地法五条一項は、「農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、省令に定めるところにより、当事者が都道府県知事の許可を受けなければならない」と定め、被告は、平成六年九月三〇日、行政手続法五条に基づく審査基準として、昭和三四年一〇月二七日三四農地第三三五三号(農)農林事務次官通達(本件転用許可基準)を採用している〔証拠略〕。一方、農振法一七条は、「都道府県知事は、農用地区域内にある農地法第二条第一項に規定する農地及び採草放牧地についての同法第四条第一項、第五条一項及び第七十三条第一項の許可に関する処分を行うに当たっては、これらの土地が農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない」と定めている。

2  農振法一七条の趣旨は、次のように解されている。

農振法は、自然的経済的諸条件を考慮して総合的に農業の振興をはかることが必要であると認められる地域について、その地域の整備に関し必要な施策を計画的に推進するための措置を講ずることにより、農業の健全な発展を図るとともに、国土資源の合理的な利用に寄与することを目的とする(同法一条)。右目的を実現するために、都道府県知事は、農業振興地域整備基本方針に基づき、一定の地域を農業振興地域として指定する(同法六条)。都道府県知事が指定した農業振興地域の区域の全部又は一部がその区域内にある市町村は、その区域内にある農業振興地域について、農用地等として利用すべき土地の区域及びその区域内にある土地の農業土の用途区域(以下「農用地利用計画」という)等を定める農業振興地域整備計画を定めなければならない(同法八条、一〇条)。市町村は、農業振興地域整備計画を定めようとするときは、その旨を公告し、当該農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画の案をその公告の日から三〇日間縦覧に供しなければならないし、農用地利用計画に係る農用地区域内にある土地の所有者その他その土地に関し権利を有する者は、当該農用地利用計画の案に対して異議のあるときは、縦覧期間満了の日の翌日から起算して、一五日以内に市町村にこれを申し出ることができる(同法一一条)。

農振法一七条は、このような基準と手続に基づいて、土地の適切かつ合理的な利用のための土地利用計画が定められた以上、農用地利用計画の実効性を確保し、担保するために、都道府県知事に対し、農地法五条一項の転用許可に関する処分を行うに当たって、当該土地が農用地利用計画で定められた用途以外の用途に供されることがないように義務付けたものと解される。

3  したがって、都道府県知事は、農用地利用計画が策定されている以上、農用地区域内にある農地については、右計画が変更され、その土地が農用地区域から除外されない限り、右計画によって定められた用途以外の用途に供することを目的とした転用の許可は原則としてできないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件土地が農振法八条に基づいて昭和四五年九月五日付けで定められ、昭和五八年九月一九日付けで変更された稚内農業振興地域整備計画(本件整備計画)において農用地区域とされた区域に含まれる農地であることは当事者間に争いがないから、本件土地を農地以外のものにするための転用許可は、原則としてできないのであり、他に特段の事情のない限り、本件申請を許可しなかった本件処分は、本件転用許可基準に違反するか否かを判断するまでもなく、適法である、と認められる。

4  ただし、農振法一七条の規定も、転用目的事業が一時的であって、その公共性が高く農業に与える影響も少ない場合や、転用目的の事業が農業経営や農業経済に資する場合などには、例外的に転用許可をすることが許されない趣旨とまでは解せられない。

「農用地区域内における農地等の一時転用に係る許可の取扱いについて」との通達(昭和五二年八月三〇日五二構改B一八八三農林省構造改善局長)が、試験研究、学術調査等を実施する場合、農業経営の合理化又は農家経済の改善に資する簡易な臨時的な施設等を建設する場合等において、農用地区域内で行われる農地等の一時転用については、他の法令通達等によるほか、次の要件のすべてを満たす場合は、農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されるものであっても、これを許可しても農振法一七条の規定の趣旨に反するものでない(〔証拠略〕)、とするのも、右趣旨を明らかにするものと解される。

(一)  農用地区域外の土地を選定することが著しく困難であるか、又は不適当であると認められること

(二)  転用事業の実施が、当該農用地区域を管轄する市町村長の意見を徴した上で農業振興整備計画の達成に支障を及ぼさないと認められること

(三)  転用期間(農地等の復元に必要な期間を含む)は、おおむね一年以内であること

(四)  転用計画において、次のような農地等の復元に関する計画が定められており、かつ、転用期間内にその計画に従って確実に農地等に復元されると認められること

(1) 当該農用地区域に係る農用地利用計画に適合していること

(2) 当該転用事業実施前の農地等と同等又はそれ以上の利用価値を有する農地等に復元するとされていること

(五)  農地法五条及び七三条の許可に係る場合には、その設定又は移転される権利が賃借権、使用貸借による権利その他の使用及び収益を目的とする権利(物権は除く)であること

これを本件についてみるに、本件土壌調査は、一私企業が本件土地に廃棄物処理施設を設置するために行うものであり、公共性のある研究・調査に当たらないし、農用地区域とされた区域に含まれる農地である本件土地ついて、廃棄物処理場施設を建設する転用許可が与えられるべき例外事由があるとも認められないから、廃棄物処理施設の設置のための本件土壌調査について転用許可をしなければならない事情は認められず、転用を認めなかった本件不許可処分が被告の例外的事由の有無を判断する裁量的権限を濫用したものとすることはできない。

5  原告は、本件土壌調査が一般的廃棄物処理施設の設置を前提としていることを考慮することは許されない旨主張する。

しかし、本件土壌調査自体を対象としても、農振法一七条の趣旨に照らし、農地法五条の許可を与えるべき例外的事由がある、とは解せられない。また、農地法一七条は、農振法に基づき定められた農用地利用計画を損なわないため、原則として、農用地区域内の農地について、農用地利用計画で指定された用途以外の用途に供することを許さない、としているのであるから、農用地利用計画で指定された用途以外の用途に供することを許すか否かの例外的事史の有無を検討するためには、当該転用事業の目的・前提を考慮することも許される、と解すべきである。被告が平成六年一〇月二六日付けで農振法一五条の五の農用地区域内における開発行為の許可をした際には、本件廃棄物処理場の設置を考慮していない(〔証拠略〕)が、農振法一五条の五は、同条二項所定の該当事由がないときは、開発行為の制限解除の許可を義務付けているのであって、原則として農用地利用計画で指定された用途以外の用途に供することを禁止している農振法一七条の例外的な許可事由があるか否かの裁量的判断をする場合とは異なるから、被告が農振法一五条の五の許可をしたことは、前記認定・説示を何ら妨げるものではない。

6  原告は、被告が廃棄物処理施設設置反対運動を支援するために、本件申請がなされる以前の時点で、本件申請を許可しない方針を決め、本件申請に対する具体的な検討を加えることもないままに本件不許可処分をした、と主張する。

しかし、本件申請を許可すべき例外的事由の存在は認められず、本件不許可処分が適法であることはすでに認定・説示したとおりであり、また、原告の農地転用事前審査に対し、農林水産省構造改善局長が、平成五年九月一〇日に、本件土地が農振法八条二項一号の農用地区域に位置していることから用地選定が不適当であり、農地法五条一項の規定による許可申請がなされても、農振法一七条の規定により許可されない旨の内示をしていること(〔証拠略〕)に照らしても、原告の右主張は理由がない。

7  右のとおり、被告のなした本件不許可処分は、適法である。

三  よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用し、主文のとおり判決する(口頭弁論終結の日・平成一〇年一〇月二七日)。

(裁判長裁判官 小林正明 裁判官 小濱浩庸 鵜飼万貴子)

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